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大宮ソフトのゲーム『カルドセプト』は2007年10月に発売10周年を迎えました。そのことを祝し、カルドへの「愛と感謝」を表明するためにセプター向け投稿作品発表の場を立ち上げました。
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 【投稿者】 アノニマスさん

 【題名】 「 幻影の故郷 」

 【内容紹介】 ―― カルドラ宇宙のとある世界、新たに誕生した
         「覇者」がひとり。

         神となった“彼”の胸に去来する想いとは……



 「 幻影の故郷 」

 暗い闇の中に、一人の男が立っている。周囲の完全な
漆黒の中でそれが人の形、男性の形をしたもので有る事が
解るのは、彼が持つ本の様な何かから漏れる幾筋かのまばゆい
光が彼を照らしていたからだった。

 ここは覇者が創り出す世界の土台。
 今まさに、ある世界で覇者となったセプターが神となり、
この場に新たな世界を創ろうとしていた。
 彼が集めたカードは既に一冊の本の形・・・カルドセプト本来の
形を成して輝き、まるで世界が再び創り出されるのを待ち焦が
れている様にも見える。


 神となったセプターは世界を創り出す時、セプターであった頃
の様にカードの中にあるイメージを思い浮かべて、まず世界の
断片を創り出す。

 彼もまた同じ様に、思い描くイメージから多くのものを創って
いった。
 大地を、海を、空と雲を、光と影を、多くの生き物達を。
そして最後に人の形を思い描き、筋骨逞しい雄雄しい姿と、
滑らかで柔らかく美しい姿を作っていく。

 ふと、神はカルドセプトを閉じて思案に耽った。

 『この世界には足りぬものがある。私の世界には、まだ新たに
 加えるべきカード(ピース)が有る・・・』

 その形をはっきりとイメージする為に、神は既に遠い、人で
あった時の記憶を順に辿りはじめた。
 静かに目を閉じると、彼がまだ一人のセプターだった頃の記憶
が蘇ってきた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 この時の彼はまだ若い、20歳位の青年の姿をしていた。
乾ききり、木々の姿も見えない荒涼とした地を歩いている。
細身の体にフード付きの黒いローブを纏い、琥珀色の髪の
大人しい印象。翡翠の様な緑の両の目には静かな光が灯っていた。

 この地に入って後、もう何日になるだろう。延々と続く枯れ
果てた土地、人も居ない大地。変わらない景色と過酷な環境に、
青年は疲れを感じ始めていた。

 しかし突如、前方からの圧迫感にも似た何かを感じ取った
彼はその重く規則的な歩みを久方ぶりに止める。

 『この膨大な魔力・・・!セプター同士が戦っているのか?
 出来ればしばらくこの場に留まって素通りと行きたいところだが、
 さて・・・』

 様子見を決め込む事にした彼は一枚のカード――

 千里眼、「テレグノーシス」のカードを取り出し、手のひらに
浮かべた。

 そして淡い輝きがカードに灯ると、彼は静かに目を閉じた。
彼の意識は野を駆け、やがて大きな魔力の発せられる元へと
吸い込まれていった。

 

 彼の意識が辿り着いた先は、彼の居た地よりしばらく離れた
場所にあった。
 やはり乾いた岩肌の見える地で、二人の男と少年が対峙している。
男達はセプターだろうか。二人ともカードを持ち、今にもその力を
行使しようとしている様だ。
 片方の男は隻眼で、痩せこけた体に包帯を巻きつけ、皮膚には
何かの刺青が有る。
 もう一人は禿頭にヒゲを生やし、でっぷりとした、いかにもと
いった風情の巨漢だ。

 対する少年の姿はあまりにも小さい。年の頃は14、5才、
まだあどけない表情、鮮やかな浅葱色のローブに黒い髪。手には
小さな布袋を持っている。
 どうやらこれから二人の男が戦う相手はこの少年らしい。
少年はこれから襲われるというのにそれを理解していないのか、
それとも気がふれているのか、二人の男を恐れる様な様子は
全くと言って良いほど無い。

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 魔力が渦巻く地より遠く離れた地で、黒いローブの青年は
意識をカードの向こう側の景色に集中する。
 テレグノーシスで見れる千里眼では目で見える映像しか
解らない。青年は魔力の気配までは探る事が出来ずにいた。

 『あの魔力の源は・・・この二人の男のどちらかのものか?』
 彼は少年の身の危険を案じたものの、その場を静かに見守った。
どういうわけか、彼の「勘」は全くと言って良いほど不安を
感じてはいなかったからだ。

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「ファイア・ジャイアント!この生意気なガキをぶっとば
 してやれ。」
巨漢がカードを掲げると、その巨漢の姿すら霞む程の巨大な
炎が現れ、その中から巨人が姿を見せた。赤き巨人は全身に
炎をまとい、周囲の地面を焦げ付かせながら少年に向かって
襲い掛かった。

と、同時にもう一人の痩せこけ、包帯を巻いた男がカードを
砂礫に向け、何かを解き放つ。

「ヒヒッ、こいつでお前を食らってやるぜ!」

 カードはその場から消え去ると、子供の手のひら程の大きさ
の鱗を持つ、巨大な魚へとその姿を変えた。鮫をも食らうかと
いう程の巨体は中空に体を跳ねるとその身を震わせ、まるで
獣の様な咆哮をあげる。そして空の一点で巨体を一層うねらせ
たかと思うと、地の中にその身をゆだねた。

 巨大魚は前途の砂利を食らい、時折その姿を地上に現しながら、
砂礫を削り取る様に「泳き」、少年の方へと向かってくる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 『まずい!このままでは・・・!』

 一瞬、彼の「勘」を理性が上回った。彼は我に返ると、すぐさ
ま手のひらの上のカード――テレグノーシスの向こうに飛ば
していた意識を自らの身体に戻し、懐から別のカード
を取り出して高く掲げた。
 「フライ!」
 彼は身体を宙に浮かせたかと思うと、その一瞬で、もはや
その場から見えない場所に飛び去っていた。

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 同刻。二体のクリーチャーが襲い掛かってきているにも
かかわらず、少年は全く怯えている様な様子を見せない。
それどころか、楽しんでいる様にすら見える。

 「F・ジャイアントかぁ。それに・・・はじめてみた!これ、
ジオファーグだね。凄い・・・!
 じゃあ、僕は・・・。」

 今や、巨大な怪物達は少年を挟んですぐ目の前に居た。
巨人の拳が少年を灰へと燃やし尽くすか、怪魚の牙が噛み砕く
のが早いかと思われた矢先、少年は二枚のカードを袋から取り
出し、赤いマントを羽織った猫の姿をしたものと、羽の生えた
小さな妖精を同時に呼び出した。
 「ケットシー、スプライト、出てきて!」

 猫の手は魔力を帯び、巨人の目の前に現れて焼けた拳を
片手で軽々と受け止める。
 小さな妖精は巨大魚の注意を少年から引き剥がすと、その
周りを小刻みに動いて翻弄した。
 あっさりと攻撃を防がれたのを見て二人の男は唖然として
いたが、怪魚と巨人は怯まない。猫と妖精を相手に再び激しい
攻撃を繰り返す。

 すると、いきなり巨人と猫の間に何かが割って入った。
あの黒いローブの青年だった。

 「・・・間に合った!ナイトよ、我が敵を切り結べ!」

 青年が取り出したカードから、大剣をかまえ、盾を持った
騎士が現れる。騎士は目に見えぬ程の速さで赤い巨人の前に
立ちふさがる。

何撃も繰り出される燃え盛る拳をその度に盾にて退け、
巨人の身体より立ち上る炎をその凄まじいまでの剣風で
受け流す。

 そして、なおも殴りかかろうとすると赤い巨人の拳と
騎士の剣先が正面からぶつかった時――
 巨人の姿は形を失った赤と青の炎のゆらめきになって、
しばらくの後に消えてしまった。

 「・・・やったか!?」
 青年が安堵の表情を浮かべる。

 それを見ると、二人の男はカードを懐にしまい、あっさり
と逃げ出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 『ふぅ。咄嗟の連続でアイテムを使う魔力が無かったけど、
 相手が良かったかな。どうにかなったみたいだ』

 青年は平静を装うと、こう言った。
 「小さなセプターさん、君には余計なお世話だったかい?」

 「ううん、そろそろ逃げる方法を考えてた頃だから丁度
 良かったよ。それよりお兄ちゃん・・・」

 少年の言葉を遮り、青年が口を開いた。
「・・・ラドニーだ。見ての通り、修行中のセプターさ。」

 「ラドニー、僕を助けちゃって良かったの?あのおじさん達
 が正しくて、僕の方が悪者かも知れないよ?」

 「その年でそれほどのセプター能力だ、確かに普通の子供
 じゃないとは思ったよ。
  でもな、大人二人がよってたかって子供一人を相手に
 してるなんて、助けないのが変ってもんだろ。
  たとえ大人の側に理由があったとしても、どうせろく
 でもない事に決まってるさ。」
 ラドニーはそう言って少年に笑ってみせた。

 それを見ると、少年も安心した様子になる。
 「僕はロイ。転送円で別の世界から来たんだ。」

 「別の世界!?確かに転送円(あれ)は別の世界とも繋がって
 いると聞いた事はあるけど・・・。
  でも君こそ初対面の、それもセプターにそんな大事な事
 話しちゃっても平気なのか?」

 「僕だってセプターだよ。それに、お兄ちゃん・・・ラドニー
 には話しても平気だと思ったんだ。ただの勘だけどね。」

 「ただの勘か。良く言うぜ、ロイ。優れたセプターの勘は
 ただの勘なんかじゃない。理由は解らないが、ときどき
 良い占い師の予知や千里眼より当たるんだ。さっきも・・・」

 「知ってるよ。僕のお姉ちゃんが言ってたけど、凄いセプター
 はカードを使うだけじゃなくて、本当は誰もが持ってる
 不思議な力を引き出せるって。
  僕はまだ半人前だけど、みんなに、勘のきく奴だって
 良く言われるよ。

  あ、みんなの事も話しても平気みたい。きっとラドニーは
 いい人なんだね。
 それに凄いセプターだよ。さっきのナイト、目で見えない位
 早かったよ。僕達だって、あんなに気持ちを「乗せ」られない。」
 少年は、純粋に驚いた顔でラドニーを見ていた。

 「セプターになってから、そんな風に言われるのは初めてだな。
 何だか照れくさいな。」
 ラドニーは、はにかんだ笑顔を浮かべてそう言った。

 「そういえば・・さっきの人達もそうみたいだけど、この世界
 ではセプターは嫌われているの?」

 「この世界・・・って何のことだ?ここは西南の大陸、アルネグト
 の中央部の辺りのはずだ。」
 と、言ってからラドニーはさきほどロイが言っていた事を
 思い出して言った。
 「そういえば、別の世界から来たって言ってたっけな。でも、
 本当に?」

 「本当だよ。そっか、ここもセプターが居ずらい所なんだね。
 僕が知ってる他の世界でもセプターが嫌われてる所はいっぱい
 あった。」

 「うん、ここでもセプターは嫌われてる・・・って言うのかな?
 ここのは多分、他のところとは違う理由だと思う。何から
 話そうか・・・。
  えーっと、そうだな。数百年前、エレウロって預言者が
 現れて奇跡を起こした。そいつの作った「エレウロの民」って
 教団はこの南の大陸全土に広まってる。ここでは誰もが信じ
 てる教えだな。

  でもそのエレウロって奴が曲者でね。他の事は大体まっとう
 な事を言ってるんだけど、セプターのことだけは随分と扱いが
 違ってる。
  奴らに言わせりゃ、セプターは呪われた存在なんだそうだ。
 たとえ赤子でもセプター能力があるのがわかると、捕まって
 処刑される。

  俺の場合は・・・セプター能力の事はどうやらうちの両親が
 必死に隠してくれてたらしい。俺本人にもそんな話をした
 事なかったからさ。
  ところが近所の金持ちの息子の屋敷に飾ってあったカードを
 触ったら、カードが急にキラキラ光りだしてさ。身体が宙に
 浮かんでたよ。そっからはもう大騒ぎ。

  金持ちの親はわめきだす、友達は逃げ出す、そこの犬には
 吠えられて・・・っと、それはいいとしてだな。

  それでここからずっと南にある故郷の村から、命からが
 ら逃げてきたってわけ。
  友達も、親兄弟ともそれっきりさ。俺のせいで投獄され
 たり、迷惑かけたくないしな。
  それ以来顔を隠して、セプター能力も隠して、北の大陸へ
 向かってずっと旅をしてる。」

 「北の大陸?」

 「そうそう、北の大陸イルーデンに行けばセプターが王様を
 している国が有って、そこなら安心して暮らせるって話でね。」

 「なるほどね。この世界が大体どんなだか解ったよ。
 ラドニーのどうでも良い身の上話までついでに聞いちゃったけど。」
 少年は相変わらずの笑顔でさらりとそんな事を言う。

 「おい、どうでもいいって何だよー!」

 「あはは。じゃあ、僕もどうでもいい話をするね。」
 そう言うと、ロイはその場に座り込んで話し始めた。

 「僕達は「時渡り」って言うんだ。転送円を使って色々な
 世界を旅してる」

 「時渡り?それじゃロイ、君達は過去や未来にも行く事が
 出来るのか?」

 「ううん。本当に時を渡れる訳じゃないんだ。でもね・・・
 いつかは行けたらいいなって。

  時渡りって名前にはね、願いが込められてるんだ。錬金術師
 みたいなものなんだって。
  錬金術って言っても、他の金属から金を創れる訳じゃない
 でしょ。でも錬金術師はその代わりに他の色々な事が出来る。
 僕達も時を渡れはしないけど、その代わりに色々な事が出来る
 んだよ」

 「さっきの戦いぶりもそれで少しは納得が行くな。
  でもさロイ、何の為に別の世界へ旅をするんだ?時を渡って
 ・・・行きたい場所でもあるのか?」

 それまでずっと笑顔だったロイの顔が曇った。少しの間をおいて、
 少年は口を開く。

 「僕達は、ずっと帰れる場所を探しているんだ。でも、きっと
 そこには辿り着く事は出来ないんだ。」

 ラドニーは急にロイの目が曇ったのを見て、かける声を失い
かけたが、ふいに顔を横に逸らすとこう言った。

 「帰れる場所?何だか良く解らないが、この世界にならずっと
 居てもいいんだぜ。俺が許す。」

 「えー。ここは嫌いじゃないけど、ラドニーの居る世界とか
 嫌だなぁ~。」

 「・・・何だよ、そんなに俺の事嫌いなのか?」
 ラドニーはちょっとがっかりした顔でつぶやく。

 「あはは。じゃ、良かったら僕達の村に遊びに来ない?」

 ラドニーはため息をつきながらこう言った。
 「お前なぁ、年下の癖して、絶対俺をからかってるだろ?」

 「年下?こう見えても僕は30歳だよ。」

 「なっ! そのなりで俺より10歳近く年上だってのか?
 道理で・・・。」

 「あ、前の世界のホビットの暦でだけどね。
  ここの暦だと15歳。」

 「・・・ナイトの剣で細切れにしてジオファーグの餌にして
  やろうか?」

 しかし、ロイは全く気にする様子もなく、最初に出会った
時と同じ笑顔でこう言った。
 「決定っ。じゃあ行こう、時渡りの村へ!一名様ご案内ー!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ラドニーにとって、こんな時間は久しぶりだった。
 村を出てこのかた、会った人間は追ってくるエレウロ教団
の刺客か、教団の迫害のせいで人を寄せ付けない雰囲気にまで
やさぐれた野良のセプターばかりで、まともに話が出来る
相手などろくに居なかったのだ。

 人とまともに話が出来る、それだけでも十分に楽しかった。
 増して相手はセプターだ。セプターだからと言って、嫌われ
る事も、避けられる事も無い。ラドニーが村へ行くのを断る
理由は全く無かった。

 村へ行く途中、ロイからは色々な話を聞いた。
 話の半分以上はラドニーがロイに遊ばれていただけだったが、
その中から「どうでもいい」重要な話も聞く事が出来た。

 彼ら「時渡り」の祖先たちが最初、何かの理由で彼らの住む
都の転送円から逃げ出して、偶然に別の世界へ辿りついた事。
彼らは故郷を目指してずっと旅を続けている事。
 転送円から、どの世界へ行けるかは解らないという事。

 そして、民の誰もが、もしも故郷に辿り着けた時に、二度と
逃げ出さない為のセプター能力を身につける鍛錬を積んでいる事。
 鍛錬の話を聞いている時に、ロイが急にこんな事を言い出した。

 「多分、ラドニーは凄く頭が良い人だね。」

 「急に何だよ。飴とムチって奴か?」

 「そうじゃなくて。たぶん、誰よりも上手く状況を判断出来るし、
 カードの相性や対応策も知ってる。
  でもね、本当に強いセプターは・・・」

 「意味を見出す者・・・かな。昔、エレウロ教団に壊された遺跡で
 かくれんぼしてた時に碑文の残骸の様なものがあった。そこに
 書いてあったんだ。何の事かは解らないが。」

 「僕達が教わったのと同じだ・・・!世界に意味を見出す者。
 きっと、もうすぐ、何の事か解る様になるよ。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 時渡りの村は、ほとんどがテントで出来ていた。
 ラクダやロバの様な家畜も居る。まるで普通の遊牧民族の様だ。
とても別の世界から来た様には見えなかった。

 二人が村に着いてから、ロイが簡単に説明をしてまわった。
それから長や村の人たちに挨拶をする。それから、またもロイが
勝手にすすめた話で、しばらく村に滞在する事になった。

 「挨拶回りが済んだから、すぐに特訓をはじめるよ。
 じゃあ、早速この村で一番良く見る特訓をするよ。ラドニー、
 魔力を丸い形にする事は出来る?」

 「・・・こうかな。魔力なんて、カードを使う時にしか出さない
 からな。」

 「それをこっちに投げてみて。ひょいっと。来た来た。じゃあ、
 投げ返すよ。ほいっと。」
 ラドニーの投げた魔力の球体は、ロイに捕まって、ロイはまた
それをラドニーに返す。

 ラドニーも調子を合わせてそれを返した。
 「よし来た。それっ。・・・なぁロイ、これいったい何の特訓に
 なるんだ?」

 「さぁ。でも、面白いでしょ?」

 「おい!何だよそりゃ。・・・俺、また遊ばれてる?」
 ・・・青年はもう涙目だ。

 「さあね。でも、この村じゃみんなこれをやるんだよ。
 騙されたと思って、ちょっとやってみたら?」

 本当に何の特訓なのか解らなかったが、ラドニーは毎日ロイに
付き合わされる事になる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「特訓」も終わって、日もくれた頃。
 ひとまず、今夜はロイの家で寝泊りする事になった。

 「ここが僕の家さ。お姉ちゃんと二人暮し。こう見えても
 家の中は宝石と真珠だけで出来てて・・・。」

 「あんまり適当な事ばっかり言うなよ。流石にもう騙され
 ないぞ。」

 ラドニーが後ろを向いてそう言った時、中から声がかかった。

 「ありがとう。ロイを助けてくれた方ですね。ロイの姉で
 ネイファといいます。」

 声がした方向を見て、ラドニーはしばし言葉を失った。
 彼の故郷では見る事がなかった黒い瞳。長く艶の有る黒髪、
雪の様な白い肌。まるで絵画の中でしか知らない様な美しい
女性がその場に立っていた。
 『たまにはロイも本当の事を言うんだな。本当にここは
 宝石や真珠が散りばめられた様な・・・。』

 そんな事を考えていたおかげで・・・
 「宝石と真珠と・・・。えっと、ラドニーです。」
 ・・・良く解らない自己紹介になってしまったが、三人に笑いが
漏れ、そのおかげで途端に雰囲気が和んだ。

 ロイが口を挟む。
 「ラドニーのナイト、凄かったんだよ。物凄い速さで、Fジャイ
 アントを一瞬でババッ!って。
  でも、別に居なくても平気だったんだけどね。」

 「お前っ、またそういう・・・。」

 その様子を見て、ネイファが微笑んでこう言った。
 「もうすっかり仲良しなのね。夕食が出来てるから一緒に
 食べましょう。」


 夕食の間中、ロイとラドニーは仲良く?口喧嘩。
 ネイファの作る見た事も無い異国の、異世界の料理の味に、
ラドニーは年甲斐も無くロイとおかわりの回数で勝負して張り
合ったりと、終始ロイのペースに巻き込まれながらも楽しく
過ごした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 夕食を終えた後は、ロイのすすめでネイファから色々と話を
聞く事になった。
 「難しい話はお姉ちゃんの担当。僕は冗談が担当さ。」

 ネイファの話は、世界と、彼が知らないカルドセプトの多くを
 学ぶ時間だった。

 「この世界はそれそのものがカルドセプトから創られている
 のよ。私達セプターがカードで顕す力も世界の全てと同じもの
 なの。
  美しいもの、醜いもの、恐ろしいもの、楽しい事・・・。
 そうした見聞きしたものからより多くのものを感じ、心に
 刻めることが大事なの。
  そしてその心の中をより鮮明に表現出来るセプターほど、
 大きな力を引き出せるの。」
 ネイファは人差し指を立て、一つ一つの言葉ごとにまるで
リズムを取るかの様にゆっくりと指を揺らしながら語った。

 ラドニーはその言葉の不思議さに、目を見開いて驚く。
 「そんな事、考えた事も無かったな。えーっと、要は心の
 底から物事に感動出来ればセプターはそれを力に変える事が
 出来るってこと?」

 「そう。だから・・・ね。感動する練習なんて言うとちょっと
 ヘンだけど、私とお話しようよ。」
 少女は子供がいたずらをする時の様な顔で笑うと、この世界
には無い音楽の話をし始めた。

 『ロイの特訓といい、ネイファの話といい、いったいセプター
 能力とどういう関係があるんだろう??』
 ラドニーは最初こそそう考えていたものの、ネイファと話して
いるうちに気がつけばそんな事はどうでも良くなってしまっていた。

 確かに彼女との会話は、彼女が言う「練習」になっていた。
時渡りの少女の話はラドニーを何より楽しませ、感慨にふける
だけの余韻を与えてくれた。
 ラドニーもまたネイファを楽しませた。これまで見入った
もの、感動したものを身振り手振りを交えて夢中で表現した。

 ネイファが他の世界の話や自分達の事などを語り、時に違う
世界で聴いた数々の美しい歌をその透き通った声で歌うと、
ラドニーも目を細めてそれに聴き入り・・・。

 代わりにこの世界では誰もが知る様な童話から人知れぬ寓話
まで様々な物語を語り、知る限りの歌を歌い、ちょっとした
冗談を言っておどけてみせたり、
 旅をして見て来た美しい景色や神秘的なこと、不思議な料理
や面白い魔法、出会った人々などありとあらゆる事を語っては
聞かせるのだった。

 彼女との会話はとりとめがなく、いつも朝まで続き、きっかけ
が無ければ途切れる事は無かった。

 朝になると、僅かにうたた寝をして、またロイや他の子供達
と「特訓」をする。
 時折、マキを割ったり、火を起したり、この世界の調査を
したり。夜になると、またネイファと語らう。

 たった数日過ごしただけで、ラドニーはここにずっと住み
たいと思う様になっていた。
 『ここが故郷だ。セプターに、皆に忌み嫌われる者になって
 しまった俺をここでは誰もが嫌わない。そしてロイが、
 ネイファが居る所。』

 そんな日々を過ごす様になって二週間の時が経ったある朝。
 いつもの様にネイファと語り合った後、僅かなうたた寝をして・・・。
ふと目が覚めると、時渡り達が住んでいたはずのそこは何も
無い野原になっていた。
 ただ、ラドニーの体にはネイファのケープがかけられていた。

 僅かな逡巡の間の後。ラドニーは近くに渦巻くセプターの
魔力を探り、そのイメージを思い浮かべるとフライのカードを
高く掲げた。
 カードから放たれた光はラドニーを包み、彼を望む場所へと
運び去った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 彼が探すセプターの一団は転送円の上に居た。
 ラドニーはその中からつい先ほどまで一緒に居たはずの少女と、
少女の手を握り、少し寂しそうな顔をした少年の姿を見出した。
 「ネイファ!ロイ!何が有ったんだ!」

 ロイは俯きながら答える。
 「ラドニー、黙っていてごめんね。僕・・・。」

 それを遮る様にネイファが口を開く。
 「元々、私達はこの世界の理の外に在る者。
  この世界のカルドセプトによって生まれたものではないのです。
 このまま無理に今居る世界に留まろうとするなら、消えてしまうの。」
 ネイファ達の姿は次第に透き通り、背景を写しこみはじめていた。

 ラドニーの姿を見て、時渡りの長がつぶやく。
 「どれだけの世界を渡ってもこの時だけは免れぬ。これは
 あがないなのだ。
 人の身のまま、あまたの世界を渡ることは許されざる罪。
 そしてなお、時をも越えようとあがく我らのおこがましさを、
 天におわすカルドラ様はお赦し下さらぬのだろう。」

 ラドニーは触れる事の出来ぬ少女に近づき、声の限り叫んだ。

 「ネイファ、僕も君と同じ世界を見たい!世界を渡り、罪を
 あがなう運命を共に歩もう!」

 少女は目を閉じ、幾度か首を横に振ると消え入りそうな声で
こういった。

 「あなたはとても大切な人。この世界にとって、そして・・・」

 ラドニーは駆け寄り、もはや水の様に空気に透けた少女の手を
取ろうとした。
 手に触れ合うも感触は無く、ラドニーの手は少女の手に溶け
込んでいた。
 その瞬間、辺りの全てが白い光にしか見えないほどの閃光が走り
―――少女も人々の姿も消えてしまった。

 ・・・みんな消えてしまった。一瞬、全てが白昼夢だったかの様に
感じられた。
 『別の世界?そんなもの・・・。』
 しかし心の底にはたった数日の、だがもう何年も一緒に居た
かの様な「練習」の記憶が浮かんでくる。
 彼の目からも透明な、景色に透けそうな何かが零れ落ちた。

 最後の瞬間、ネイファは何を言おうとしていたのだろう。
僅かな間だったが、お互いを解りあえた気がした。きっと心は
通じあっていた。
 それが自分と同じなら、彼女の言葉はきっと・・・。

 だが、そうであったならば。どうしてネイファは自分を受け
入れてくれなかったのだろう。
 『・・・きっと、何か理由が有るんだろう。』
 それがどういう理由かは解らない。だが、セプターとして
磨いた能力が、「勘」が、彼に彼女の想いと、見えない理由の
存在を確信させていた。
 なぜか、聞けないはずの答えが聞こえた気がした。そして
それは波紋の様に広がって・・・
 彼の心を暖めるのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 これよりしばらくの時を経て、ラドニーは覇者たるセプター
となる。

 ロイが教えてくれた力のバランスと制御は彼に冷静さとそれ
まで以上の判断力を与え、
 ネイファが言う、世界の全てに感じ入り、それをイメージと
してあらわす力は彼に絶大な魔力をもたらした。
 心には山野や人の心の美しさに思い至る余裕を持ち、時には
戦いをするも奢る事なく、怠る事なく、カードを使う技を磨いて
いった。

 そして神となった今。カルドセプトから得られる偉大な力は
時渡り達の過去と行く末を自然と教えてくれた。
 彼らが目指す故郷「ナバト」が滅ぶ前の時代が、最初の覇者が
生まれた時よりも過去にある事を。
 最初の覇者が生まれる前の時代を変えてしまう事は、宇宙の
全ての理を変えてしまう。
 彼らが本当に時を渡れたとき、カルドラ宇宙は変わってしまう。

 それは有ってはならないこと。そして、絶対に起こらない事。

 『時渡りの民が故郷に帰る事は出来ないし、許されること
 ではない。きっとカルドラはそれをお許しにはならないだろう。
 ・・・ならば。』

 ・・・神となったセプターは、カルドセプトの最後のページに
新たなカードを書き加えた。
 幻影の地「ドリームテレイン」のカードを。

 どうあっても辿り着くことが出来ないのなら――せめて安らげる
故郷の夢を。
 いつかネイファやロイが、もしかするとその子孫達がこの世界を
訪れた時、手にしたカードから彼が感じたのと同じ、一時の安らぎ
を感じてくれるように。


 世界の台座の中心で、神は静かに笑みを浮かべていた。

 『あれが「練習」なら、創造は「試験」、これは「補習」とでも
 言おうか。
  ねぇ、ネイファ。ロイにそう言ったら、今度は何て言って
 からかわれるんだろうね?』

 ・・・新たな世界に、新たなカルドセプトが神の祝福と微笑みと
共にカードとなって降り注いだ。

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セプターとは何者か
アノニマスさん、素敵なSSをありがとうございました。

セプターとは何か、その力は何によって最もよく計ることが
できるのか?
――実際のゲーム内にも通ずる重要なテーマだと思います、
よくぞ提示してくださいました! と手を叩きたい気持ちで
いっぱいですよ。

オチまできて「なるほど!」と感じると同時に胸が切な~く
なりました……。重ねて、ありがとうございました。
カヲル 2007/10/30(Tue)00:53:58 編集
とっても
感動しました。
なんだか、カルドセプトへの愛が文章から滲み出ているようで。

『ドリームテレイン』でこういう物語を書けるって、すごいです。
実は私も、各カードにまつわる短編集を書こうかと思っていたのですけれども……、アノニマスさんの作品を読んだらとても適わないや~って感じます。

胸があったかくなりました。

(あ、そうだ。みんなでアンソロジー書いたら面白いかもしれませんね。カードに纏わる神話、物語を。)
森陽 2007/11/05(Mon)23:32:56 編集
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